【芦屋】
「裸の女性たちは社会の鏡」だと思って日々の取材をしています。
それを痛烈に感じたのは大学奨学金問題。
もう十何年間でAV女優や風俗嬢にインタビューを続けていて2000年代後半から普通の女性が多過ぎることに違和感を覚えた。
その前位なら借金や虐待などの家庭環境が不安定な女性が多かった。
どうしてもお金が必要となっているような、もう風俗業界じゃないとと言った雰囲気があった。
どうして普通の女性がとなった時の違和感の1つが偏差値が上位の大学に在籍する現役女子大生が取材に続々と出てくるようになった事だ。
覚えているだけでも神戸大、大阪大、慶応、同志社、青山学院、と言った有名大学。
彼女達に話を聞いても家庭に問題があると言ったわけでもなく、本人の性格もいたって普通のいい子みたいな感じだ。裸になって場合によっては犯罪や病気と言ったリスクが高い仕事をする理由がない。
彼女達と話していると奨学金と言う言葉がたまに出ていてそれが若者の貧困問題だと気付いたのは2010年頃になってだった。
女子大生風俗嬢の当事者も貧困と言う自覚がなかったから奨学金と言う言葉がたまにでてもピンとこなかった。
【吉田】
これは反省なんだけど、私は貧困からのSEXワークに絞って取材をしてきましたので女子大生風俗嬢はあまり取材してなかった。現状の把握が遅れた感じはある。
組織売春の援デリ界隈で現役女子大生と言うのはあれだけ取材しても3~4人程しか会ったことがなくて、全員が実家住まい、いじめや家族からの酷い虐待を受けているような子達だった。逆に男の子だと2009年頃からかな、大卒の闇金スタッフや現役大学生の振り込め詐欺プレイヤーが現れたのを取材してましたが、そこで思ったのが「奨学金制度を払ってまで受けなきゃいけない教育ってなんなんだ」と言う事。
大学教育がその後の人生で明確に役立っているケースなんてあまりないなと思って。まあ私が見てきた範囲なので他の視点から見ると違っているところもあるかもしれませんがね。
【芦屋】
なぜ女子大生が風俗嬢になるのかと言うと単純な話で、学生生活を送るためのお金が足りないわけ。親世帯の収入が20年前と比べると20%下落する中で学費は高騰している。
私立大で年間100万円位、国立文系でも53万円もする。これは本当に高い。
さらに大学は昔と違って出席に厳しくなっていて時間もない。大学の寮暮らしならなおさら時間が制約されてしまう。
大学生が1日に消費できる金額のデータも20年前は2500円だったが今は900円を切った水準までになっている。1日24時間しかないと考えると学生生活を送るのが困難。
そうなるとお金と時間が足りないとなり、当然ながら、手早く短時間でも稼げる所を探す。
これで考えていくと当然1部の女の子は売春するよね?それが一般化して広がってしまった。
【吉田】
一般化と言うキーワードは腑に落ちます。たぶんこの時期は風俗業界の求人革命と重なっています。ナイトワーク系の広告代理店がすごく勉強し始めた時期でWEB求人が増え、求人媒体でも学生歓迎や非接触を強調してすごく明るい業界のように演出しだした時期。
全国の繁華街の屋上広告に風俗求人媒体が増え始めた時期でもある。
【芦屋】
親の援助が少ない自宅外通学や私立大の女子大生は体を売る環境と条件がそろいすぎている。
そのような厳しい状態の中で2004年に政府は高等教育費の削減のために、日本学生支援機構と言う独立行政法人を作って大学奨学金を金融事業化した。
原資を財政投融資に切り替えて、回収も厳格になった。
親の世帯収入が低いと審査で認められると有利子の貸し付けを受けられると言うありえない制度で、何も持っていない貧乏育ちの子たちが、社会に出る前に300万~800万と言う巨額の負債を背負わされることになった。
高校3年生と言う未成年者に数百万の負債を決断させるのは非常識だし、同じ財政投資を原資にしている住宅ローンは住宅を担保にできる。
返せなかったら住宅を手放せば相殺できるが、奨学金は学費だから返せなくなったら連帯保証している収入の低い親に返済の義務が行く。
本当に逃げ場がない。
【吉田】
どう考えても悪質ですよ。その大学教育で得るものにそれだけの負債の価値があるのかを考えると。しかも芦屋さんは奨学金で大学に通うことに、そもそも無理があると考えていると。
【芦屋】
だってそうでしょう。まず、1番厳しい環境にいる自宅外通学の学生達が長時間のアルバイトに行き詰って風俗を選択する。
それと学費の大半を自分で用意しなければならない低収入家庭の学生で、環境はそれぞれ違ってくるけど、おおざっぱに生活費と学費を計算すると月15万くらいはアルバイトで稼がないと学生生活を維持できない。
本業の出席の厳しい学生をしながら、最低賃金に近い時給で15万円稼ぐのは無理だよ。
時間的に無理のある生活を送って、肉体的、精神的、経済的に疲弊してきて、もっと稼げる仕事や効率のいい仕事はないか探す。
そう言う経済的な背景があって、どちらかと言うと真面目や子や頭脳明晰な子と言った層が裸の仕事を選択している。
【吉田】
そこに求人広告の「明るい求人」が来る。
実際に非接触をうたっている求人でも、面接してお店に入ったら、最初はサクラの客を付けて稼がせて、おいしい思いをさせてから「接触系なら3倍は稼げるよ」と言った誘因で普通のデリヘルに移るように仕込まれていますから、あっという間に女子大生風俗嬢の完成です。
【芦屋】
風俗は稼ぎづらくなっているけど、18~22歳の現役学生はカラダを換金しやすい。
女子大生で風俗をやると腹をくくればそれなりにお金になる。学生生活を維持する為に月15万円を稼がなければならないとなると、いままで月150時間のアルバイトをしていたのが風俗になれば5日間で稼げる。
待機時間を含めても50時間くらいで15万円に届くはずで、労働に割かれていた時間が月100時間浮く。
現役女子大学生は高級デリだとか、ソープランドとか、価格が高めの風俗にいる。
年齢的に価値が高いから、激安店のようなところにはいない。
アルバイトで時間に追われる学生と比べると充実した学生生活を送っている。
就職活動にも集中できるし。だから多くの女子大生風俗嬢達は、つらいどころか「風俗って仕事を知れて本当に良かった。一歩踏み出していなかったら、自分がどうなっていたか分からない」みたいに感謝しているくらいだ。
【吉田】
ほんと困る。
その子たちが風俗業界に来ることで、本来そこにいた子たちが稼げなくなって締め出されていく。
しかも、彼女たちは貧困層ではないかもしれないけど、その貧困状態はあえて作られたものです。
理系で研究者や技術者を目指すならまだしも、本当に将来に必要になるかどうかも分からない教育を受けて、履歴書に書く「▲▲▲大学卒業」と言う1行を買うために、18歳の子に数100万の借金を押し付ける。
「日本で最悪の組織的詐欺は大学だ」。
これはそこの大学に通いながら振り込め詐欺をしていた子の言葉です。反論できませんでした。
教育がここまでビジネス化されていることに、なんで誰も文句を言ってこなかったんだろうと。
【芦屋】
今の風俗業界から貧困女性のセーフティ―ネットとしての機能が失われているのは、女子大生みたいな子たちが参入するようになったから。
奨学金問題は共産党や社民党に伝わったことで一般の人たちも知るようになったけど、奨学金返済の為に女子大生たちが風俗で働いてるって誤解されがち。
奨学金の返済が始まるのは卒業して半年後からなんです。
現役の女子大生風俗嬢は有利子で返済義務のある奨学金の回避や借入金の減額の為にカラダを売ることを決断している。
要するに社会の欺瞞のようなものを理解している頭のいい子ほどカラダを売っている。
逆にポエム文脈のようなものを信じる層ほど返済が始まってから現実に気づいてパニックになるみたいな。
AVプロダクションも風俗店も、「奨学金返済のため」と言う女性が増えているって口をそろえて言うし、世帯にお金が足りない中で進学することが風俗嬢への切符みたいになってる。
【吉田】
身も蓋もない話ですよ。売春ではなくて愛人クラブや交際クラブ系の取材でもまったく同じ話を聞きます。
頭のいい子は在籍中に、頭の悪い子は卒業後に就職できなかったり、所得が低かったりであとから参入してくる。
だから愛人クラブ業界では22歳までの子に客が集中するとかそんな話があります。